ねむり 村上春樹

ねむり

ねむり

21年前に発表された「眠り」に、ドイツのイラストレーターの絵が入れられ、
原稿も加筆され装丁も一新されて出版された本書。
原版のほうは読んでいないのですが。。

17日間も眠らず過ごしている主人公。それ以外はごく普通に日常を過ごしている。
淡々と繰り返される日常のほうが いつのまにか現実味がなくなってゆく。
「何かが間違っている」
いつのまにか どんどんどこかへ行ってしまいそうな。。


私は寝つきは普段はとてもいいほうだけど たまに なかなか眠れない時がある。
そんな時 ちょうどこの小説を読むことができた。
それが とても心地よかった。
最後は ぽい と 放り出されたようになったけど なぜか それが 心地よかった。

村上春樹の文章はやはり好き、とあらためて 思った。

しかたのない水 井上荒野

しかたのない水

しかたのない水

 フィットネスクラブに通う、6人の男女の、それぞれの物語。
女を傷つけることをなんとも思っていない、美しい肉体の男 
日常から解き放たれることを夢見る用心深い妻
妻が失踪したらしい水泳コーチ。。。

みなそれぞれの、多少異色な、日常を生きながら 
でもどこかで、現実を少し離れた場所から達観しているかのよう。

井上荒野の小説に出てくる人たちの印象はそんな感じがする。

この中で 私は 「クラプトンと骨壷」が 一番印象に残る話だった。
井上荒野の小説は 空気感だけが残るものが 多いように思うけど
この話は、映像になって迫ってくるものがあった。

12号ができました。


http://plaza.rakuten.co.jp/fpmari/

フリーペーパー毬 は友人が編集している、手作りの冊子です。
編集者と執筆者によって制作費を出し合い、広告を目的とせず、「与えること」をコンセプトに
関わる人たちの手によって制作されています。
電子化された文字が主流になってきている今、あえて、手にとって読んでもらえるカタチにしています。

私は1号から 時々関わらせていただいています。
以前は 表紙絵、題字 イラスト などを描いてきましたが 今回は詩を書きました。

毬は毎回テーマが決められます。今回は 「触れる」。

テーマを聞いたときに ふと浮かんできた言葉があり、そこから 次々と言葉が生まれて
書き留めていくうちに、詩の形になりました。


多様な執筆者がそれぞれに、テーマから浮かんだ言葉で 参加しています。

京阪神のカフェなどを中心に 設置してもらいます。
どこかで、ほっとするひと時に 手にとってもらえれば、嬉しいです。
毬は、執筆者からのお手紙です。ほんの少しでも 何かを受け取ってもらえたら。。
刷り上ったばかりの 真新しい毬を、一枚一枚折りたたみながら、そう願いました。

 よるくま 酒井駒子

よるくま

よるくま

酒井駒子は、この児童書の挿絵に惹かれたのが最初でした。

オオカミ族の少年 (クロニクル 千古の闇 1)

オオカミ族の少年 (クロニクル 千古の闇 1)

児童書に描かれている絵にはすごく惹かれるものがあったが、この絵本の表紙を見たときは
ただ可愛らしい雰囲気だけの印象だったので 手に取らなかったのでした。

でも。そうではなかった。

この絵本は可愛らしい、おはなし、として仕上げてあるけれど、ほんとうは 深い恐怖と悲しみを、そしてそこから
救われたい切実な願い、想いが描かれていると思う。

男の子が1人でベッドで眠ろうとしている。でもなかなか眠れなくて 起きていたのでしょうね。
お母さんに「まだ おきてたの?」と言われてしまう。そこで男の子は くまのこが訪ねてきた話しを
お母さんに語り始めます。
「あのね、きのうよるね、うんとよなかに かわいいこが きたんだよ。」
お母さんがいなくなって、探しにきたよるくま。
男の子はよるくまと一緒によるくまのお母さんを探しに出かけます。
このときの くまのこの愛らしさ、そしてその小さな胸は不安でいっぱい。
今にもあふれ出しそうな悲しみが胸に迫ってきます。

あちこち探しにいくけど
どこにもお母さんはいない。探しているくまのこの小さな後姿が切ない。
そして、とうとう、こらえていた悲しみがあふれ出し、くまのこは、なみだを流して
泣き出してしまう。
よるくまの涙は 真っ黒。どんどんあふれる涙で あたりはどんどん暗くなり 真っ暗闇に。。

真っ暗闇の中 「たすけて ながれぼし!」
そう叫んで 流れ星をつかむと、それは くまのおかあさんの釣り糸に繋がっていたのです。
ながれぼしにつかまって くまのこと男の子は くまのおかあさんのもとへ。
このときの くまのこの泣きながらお母さんを見つめる横顔は、全身全霊で救いを求める
無防備でいたいけな、思わず抱きしめたくなる幼子の姿。
くまのこを抱きしめたおかあさんくまは、
「ああ、あったかい おまえは あったかいねえ」
全てをゆだねて、身をあずけてくる幼子を抱くとき、抱きしめる方も、あたたかく包まれる。
くまのおかあさんは「あしたになったら、おさかなをやこうねえ、バスにのって いこうねえ」
あしたの楽しみな話しをきかせながら
 「きょうは もう お や す み」

この おかあさんの言葉があるから、安心して眠ることができる。

幼い子供のおはなしではあるけど、人は このよるくまと同じ思い、願いを、大人になっても
持っているのではないか。真っ暗な中で見つけた流れ星によって 明日へつながる力を得ることができる。

この絵本にはものすごく押さえてあるけど、酒井駒子のほんとうの魅力が隠されている。。と
今読んで思いました。

キサラギ

キサラギ スタンダード・エディション [DVD]

キサラギ スタンダード・エディション [DVD]

自殺したアイドルの一周忌に集まった、ファンサイトで知り合った5人の男達。
そこで 彼女は自殺ではない、と1人の言葉から、状況は一転。。。

五人の個性的なキャストが それぞれいい味を出している。
先日みた ゆれる で、名演していた香川照之 ここでも一番存在感がある。
他、ユースケサンタマリア 小栗旬 小出恵介 塚地武雅

会話だけでストーリーが展開してゆく密室サスペンス。
それぞれの謎が順次明らかになるにつれ、いったい誰がほんとうなのか、、?

笑いと驚きと感動。。と紹介されていたけど 確かに 笑いと驚き はある。
感動は。。。 最後に出てくるアイドルの歌と それを熱唱する5人。。
私は最後まで可笑しかった。

空中庭園

空中庭園 通常版 [DVD]

空中庭園 通常版 [DVD]

角田光代の原作は読みかけて途中でやめてしまっていた。
(私はどうも角田光代がすんなり読めないのです。。)

バブル期に建てられた高層マンションに暮らす、いっさい隠し事がない、というのがモットーの小林家が舞台。
その家庭はその主婦である絵里子が作り上げたもの。
でも 家族はそれぞれに秘密をかかえ あることがきっかけで
それらが露出してゆく。
それでも なんとか 家族のカタチを守ろうとする絵里子。
それは絵里子の育った家庭への復習と反撃でもあったから。

小泉今日子が出ているからか、イメージが『トウキョウソナタ』と重なる。
http://d.hatena.ne.jp/mitsu5/20091013
家族のイメージも重なる部分がある。
家族の崩壊と再生を描くところも。

永作博美がよかった。大楠道代は異端なイメージがあるけど、今回は一番普通の人に見えたように思う。
ラストは、やり直し、再生が象徴的に描かれている。真っ赤な血の雨と真っ白な花。

でも、一度真っ赤に染まったものは真っ白になれるのだろうか。
一度死に、生まれ変ってそうなれるのか。。

小説の空中庭園とは、かなり違う作品に仕上がっているらしい。
監督独自の解釈で、結末も違うとか。

だいたいは 原作を読んでから映画を観るけど、あとで原作を読んでみようと思う。

図書館の神様 瀬尾まいこ

図書館の神様

図書館の神様

瀬尾まいこの作品は一冊くらいは読んだことがあったはず。
でもあまり何も残らなくて、その後は手に取ることもなかった。
今回たまたま家族が読んでいて、置いてあったのを手に取り
すらすら一気に読んでしまった。

バレーの選手としてまっすぐ育ってきた主人公の清(きよ)は
卒業近い高校3年の冬に、ある出来事で バレーから遠ざかってしまう。
逃げるように田舎の大学にゆき、熱意もないまま高校の講師になる。
気乗りしないまま文芸部の顧問となり、図書室で過ごすことに。。

文芸部のただ1人の生徒が なかなか魅力的。その生徒と清のかけあいが面白い。
今まで文学に全く興味のなかった清が 文学に触れてゆく瞬間が 読んでて楽しい。

ぐずぐずと投げやりなまま生きていた清は 文芸部の顧問として過ごした1年で
すこしづつ変ってゆく。

さらーと読めてしまう。安心して読める。時々 どきっとする言葉もある。
楽しく読めて ちょっとスパイスもきいている。

休日の午後ちょこっとお菓子を食べるように読めた。
でも やっぱりなんか 後々残るていうのが あまりないような。。。