本の記憶

最初の記憶は何だったか。

私は幼稚園児で 幼稚園の部屋の片隅に置かれた本箱にある本を読むのが楽しみだった。
誰にも邪魔されず そこで本を読んで居たかった。

ある日読み始めた話は 他の絵本よりも長く その場所にしゃがみこんで
 その話に引き込まれていった。 不思議と絵はほとんど覚えていない。
淡い色彩が微かに残っているだけ。それもあいまいな記憶。

でも そこで私を貫いたのは その物語のストーリーだった。
そのお話は 他の絵本とは かなり違っていて その魅力に
下腹がきゅっ と痛くなるほど 身が捩れるほど 奥深くに入ってきた。

多分何回かに分けて 読み進めて行ったようにおもう。
その時の私の読解力では タイトルも 作者も 認識できなかった。

その後引越ししたのか その絵本に出会えなくなってしまった。
でもそのストーリーだけは 鮮明に覚えていて そして
子供心に もう一度読みたいから なんとか 覚えていて
どこかで再会したいと 願っていた。

こういうストーリーで 。。と 周りの大人にきいてみたけど わからなかった。
まあ 幼稚園児の世界はものすごく狭いので それ以上知る
方法は なかったのだと思う。

その物語に再会で きたのは それから何年も経った 小学校の何年生か。
宮澤賢治 という名前を知ったのは 教科書に載っていた
やまなし だったかとおもう。あのお話も不思議でおそろしい。

その頃に賢治の童話をいくつか読んでいるうちに あの
捜し求めていた話しに 再会できた。

それは

注文の多い料理店」だった。

幼稚園の年少くらいの子供にしたら かなり衝撃的な物語だったと思う。
それでも、 何故かとても惹かれるものが 幼い心にあった。
その後何年も心に深く刻み込まれるほどの 物語。
その出会いは
数十年を経た今でも 忘れられない 鮮やかな記憶。 
神秘な時間だった。