人質の朗読会 小川 洋子

人質の朗読会

人質の朗読会

小川洋子の小説は 博士の愛した数式 は とてもよかったけど
その後続けて読もうとしたものは あまり受け付けなくて それ以降敬遠していました。
でも これは表紙とタイトルに惹かれたのと、物語の設定が かなり特殊なもので
いったいどういう物語なのか? という疑問から 入ってゆきました。
そして導入部分で ぐっとひきこまれ 最後まで一気に読みきってしまいました。

このタイトルにあるように この物語は人質によって朗読されたものである。

とある国で 日本からの観光客がゲリラの人質になり、かなり長期間拘束されてしまう。
その間にその場所で 人質が自分たちで書いた物語を順番に朗読している様子が
テープに吹き込まれていて、それが この事件後に 公開されることになる。
人質は 結局全員が 殺害され、その後に残った遺品なのである。
そこに語られていた物語一つ一つが、一つの章となっている。

その物語ひとつひとつが、とても味わい深い。
 どれも淡々と それぞれの想い出深い記憶の一片を記されただけのもの という
カタチをしているけれど そこには かけがえの無い、生きた証が刻まれている。

そして物語の最後には人質の職業年齢旅行目的が記されている。

それぞれの人生にはみな 語るべき物語が ある。
それが 人生を大きく変えるような事件でなくても
なぜか いつまでも心に残り続ける その時間。
そういうところにこそ 深く心に響く物語が隠されている。


その世界にすっとひきこまれて いつまでも余韻が残った。

また 小川洋子を読んでみたいとおもう。