ひと呼んでミツコ

面白いから読んでみ、と人から勧められて読みました。姫野カオルコの作品は、短編のホラーを読んで、次に長編を読みかけてみたけど、あまり入ってこなくてやめてしまっていました。
この作品が彼女のデビュー作で、1990年出版。
舞台は80年代、私立薔薇十字女子大英文科在籍中のミツコ。ミツコが愛するものは 地球資源、公衆道徳、信ずるものは偏差値、マークシート
許せない不埒な輩にミツコの超能力の鉄槌が下る・・。

紹介文を読んだ時は、華やかな女子大生正義の味方?と思ったけど、実に地味なミツコ。その時代を駆け抜ける表舞台の人ではなく、ごくごく少数派な存在のミツコなのです。
その視点には、もうかなり笑えてしまって、黙って読めずに困ったのでした。
物語の展開はコミック調で、鉄槌を下すあたりはギャグ漫画の映像が浮かぶのだけど、私はそこに到達するまでの細かいところのミツコの苦悩に一番笑えてしまったのでした。鋭い人物観察や、そういう人達を前にした時の、言葉に出来ない、様々な迷いや葛藤。かなり共感をもって笑い、笑えない程響くところもあったり。
半ばにある、ミツコの恋のエピソードは、他の章とはとちょっと違っていて、やっぱり笑えるのだけど、切なくて身にしみるところがあった。
80年代の時代は今から見るとずいぶん違った文化だったとあらためて思い、その頃学生だった自分を懐かしく思い出すところもあった。

このデビュー作、ほとんど売れなかったとか。確かに難しかったかも・・。今になってようやく読んだのが惜しかったと思いました。
でも、今読んでも私はすごく面白かったし、これ、よくぞ書いてくれました!と拍手したい気持ちです。