私が語り始めた彼は

私が語りはじめた彼は

私が語りはじめた彼は

この本、冒頭の部分が、目をふさぎたくなるようなシーンが引用されていて、立ち読みしかけて敬遠していたのでした。
でも、角田光代の紹介文を読んで、読んでみることにした。

エゴイストでロマンチストであった、大学教授の村川融。彼の行動によって、その周りの人間の人生が、いろいろな形に影響されてゆく。
もし、村川が主人公で語りはじめられたとしたら、巷にあふれる陰のある、ロマンチックな恋愛小説になるのだろう。
でも、この小説の中に、村川自身は登場しない。周りの者の証言によって浮き彫りにされてくる。
周りのものにとって、どれほどの苦難であったか、淡々と語られてゆく。

「事実はひとつですが、真実は、人の数だけあるのです」と、村川の妻は語る。

救いのない結末・・とも言えるけど、でも、微かに、暗いトンネルの向こうに、光がみえている。
それを、この本を評した角田光代は、「恋愛を超えた人と人との繋がり」と表現していた。

人は儚くたくましい。
そこを描きたかったのか。