海の仙人

海の仙人

海の仙人

この著者の作品は「沖で待つ」を以前に読んでいたのだった。
でもあんまり印象に残らなくて、読んだことも忘れていた。でも前回読んだ「逃亡くそたわけ」
は、なんだかいいなあ、と好きになったのでした。

で、この「海の仙人」。
海の町敦賀に世間を離れ独りで暮らす主人公の男のもとへ、神様が居候にやってくる。
この神様、ただ居候するだけでご利益はないし、ご飯も食べる。でも、やはり神様なのです。
読み始めて、ひっそりと落ち着いた雰囲気、ほっとするのだけど、静かに漂う寂寥感に引きこまれていった。
登場人物が、みな、それぞれに抱えているものがあって、でも淡々と生きていて、それだからこそ愛しくなってしまう人たち。
主人公も、大きなものをどうしようもないまま抱えていて、なんとか向き合っていくのだけど、でも、何も変えることが出来ない。それでも、生きてゆく
「なにかをするってことは前に進むことなんですか?」という問いに、神様の答えは「自らが自らを救うのだ」
なんて孤独なんだろう。でも、だからこそ、人は、人と関わろうとする。

静かで、淡々としたこの物語全体に漂うもの、行間からにじみ出てくるもの。それがたまらなくよかった。その中にしばらく浸っていたいと思った。